悠悠録

クルマ社会

平峯 悠

 酒気帯び運転による悪質な事故が続発し、運転者に対する厳しい罰則を求める声が大きくなっている。 また駐車違反も遅ればせながら取締りが強化され た。事故や事件が起こってから場当たり的な対応に終始しているが、本当にこれで良いのか。

 1973年、交通評論家角木良平氏は「自動車は危険な乗り物ということを外国の経験から学ぶべきであ った。ところが我が国では、車とそれに乗る人のこ とだけが取り上げられ、被害を受ける人のことが忘 れられてしまっている。交通安全のためにはドラィバーも歩行者も互いに注意すべきであるが、ドラィバーは歩行者に比べ二千倍(運動エネルギー対比) も注意してもらわないと釣り合いが取れない」と警告している。

 現在土木学会関西支部で「街路」に関する調査を 行っているが、多くの人に良いと考える街路をリストアップしてもらうと、車道を中心に両側に歩道があり、形の良い樹木が植えられている道路があげられる。景観的には美しいが生活のにおいや人々の往来が見られない。極端にいうとクルマ中心のひと気 のないニュータウンの幹線道路である(※)。

 それと対照的なのは、LRTを導入した欧米のウィーン、アムステルダム、ポートランドなどの都市の街路であり、そこでは人々が行き交い、まちを楽しんでいる。先日見学に行った富山や高岡ではせっかくLRTを導入したのに「クルマ」や「街」そのものを見直していない。残念なことである。子供がのびのびと道を歩き、学校に通うのみならず、人々が自由に安全に都市の街路を歩き、楽しむことができない国が先進国といえるのか。

 最近の日本では車を中心として街がつくられているといえる。街の中心部でも駅前でも人々は道路の横断を制限され、向かい側の店舗や食堂に行くのにも遠回りし信号待ちをしなければならない。しかも歩道には横断防止の柵が設けられ、段差も大きい。安全という美名のもとに歩行者が虐げられてる。歩車道分離の徹底による安全確保も必要ではあるが、人間優先のもとに車と共生できるまちづくりがきわ めて重要である。そうでないとまちに人々がいなくなり、これまでの日本の街の風情や賑わいも廃ってくる。

 人間とクルマが共生できるまちづくりには、次のようなことが必要であろう。

 都市を再生し、豊かさを実感できるためには、本気 になってクルマ社会を見直さねばならない。特に各地で話題となっているLRTを推進するには、クルマ社会の種々の問題を正面から議論しなければ実現できるはずがない。街路の調査をしていてつくづくそう思う。

(※)大阪・京都・神戸の旧市街地には車を少し規制し、看板や建物を見直せば、すばらしい 「街路」になる空間はある。しかし事例としてはあがっていない。


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