ニュージーランド山行(その1)

−ミルフォードトラックを行く−

平峯 悠

 世界で最も美しい散歩道と言われるニュージーランドの大自然を行くミルフォードトラックは、1888年に初めてルートが開拓されて以来本格的なトレッカーから初心者まで多くの人達を魅了してきた。今年の1月末、山の仲間からミルフォードトラックに行かないかという誘いがあり、ふたつ返事で参加することにした。飛行機の運行の関係から、3月13日から22日までの10日間、総勢7人のグループでのトレッキングとなった。

●サザーランド滝への道

 ヨーロッパからミルフォードサウンドへの最初の移住者ドナルドサザランドが1880年サザーランド滝をみつけてからミルフォードトラックは世界で第8番目の不思議といわれ、トレッカー達がアーサー渓谷へのトラックの整備をはじめた。しかし海側からのルートからのアクセスは不便であるため内陸からのルート開発が急務となり、1888年クインティン・マッキンノン郷がアーサー峡谷、サザーランド滝、ミルフォードを結ぶ峠(パス)を超えることに成功した。

 ミルフォードトラックは最初からトレッキングを目的に作られたもので、日本の登山道のように極端な難路や苦しい修験の道ではなく、道幅や勾配もゆったりしたまさに楽しむためのトレッキング道である。

●ミルフォードトラックの概要

 ニュージーランド南島の西南部にあるフィヨルドランド国立公園を南部区に貫くトレッキングルートであり、全長はテアナウ湖からミルフォードサウンドまでの約54km、高低差は約1100m、道幅は約2m、マッキンノンパスにおける勾配はガイドの説明では8m進んで1m、即ち12.5%程度、このルートを4日で歩く。私たちの常識では全く楽なトレッキングである。苦しい思いをしその中で楽しさを味わうという修行者のような登山思想やトレッキングの考え方はしない。しっかりしたルート整備には当時の囚人の労役によるところも多い。

 また、哺乳動物が少ないことからルート上にある自然の水が自由に飲める。

●ガイド付きウオークと個人ウオーク

 ミルフォードトレッキングにはガイド付きウオークと個人ウオークの2種類がある。ガイド付きと個人ウオークは全く異なり、一方は食事・宿泊施設・シャワー・その他が完備しており、荷物も最小限でよいこと、一方の個人ウオークは食事から寝具をすべて携行しなければならないことである。いずれも厳格な入山制限があり、また逆行が原則禁止され、1日50人以内に限定しているため、トレッキングとしてはゆとりがある。どちらを選ぶかは個人の自由である。私たちはガイド付きウオークを選択したため貴族のような気分を味わうことができた。

 当然料金に差があり、ガイド付きウオークは時期により若干の差があるが、有名なミルフォードサウンド周遊を含め5泊6日で1680〜1850NZ$(日本円で約16万円強)、一方個人ウオークは200$と桁が違う。

●ロッジ(山小屋)の維持管理

 宿泊した4つのロッジは日本人から見ると立派なホテルであり、食事はフルコースに近く、メインディッシュも選択可能、ワイン・ビール(別料金)は種類が豊富、昼食は材料豊富な食材でサンドイッチを自前で作るが、果物も嗜好品を自由に持って行ける。水洗トイレ、立派なシャワー室もあり、材料や必要なものはヘリコプターで輸送する。管理人は1ロッジに3〜4人、ガイドは1パーティー(50人)に3〜4人でトレッカーの世話や案内をする。

 ロッジの維持管理は当初はニュージーランド政府観光局が管理していたが、現在は民営である。施設は国から払い下げを受けているが、料金は独自で決定できる。料金を上げればまたサービスが悪ければ人はこない、市場に任すという考えである。日本でもこのような考え方で経営する環境になれば登山やトレッキングに対する認識が変わると考えられるが、変な平等思想が蔓延している日本では無理かもしれない。


ロッジ内の食堂

●トレッキングの面白さ

 陸地の奥深く入り込み、両岸が急傾斜し、横断面がU字形をなす渓谷がつづくトラックでは、大量の雨による巨大なシダ類とブナ林の連続は日本で見ることができない景観である。至る所に流れ落ちる巨大な滝、人をおそれず間近にやってくる鳥など、世界で最も美しい散歩道という表現はまさに適切である。

 もう1つのトレッキングの面白さは世界の人達との交流であろう。今回は総勢23人、うち日本人は私たちのグループ7人、他はオーストラリア人グループ、アメリカの新婚さんと単独行の女性、カナダ人、ニュージーランド人など国籍の違う人達が行動を共にする。もっと英語を勉強しておけばと後悔したが後の祭り。

●ニュージーランドの旅

 今回、成田を出発し帰国するまで10日間であったが、トレッキングは5日、残りはニュージーランドの街・都市を観光してまわった。クイーンズタウン、クライストチャーチのまちにはイギリス風の考えで作られており、示唆に富むことが多かったが別の機会に紹介したい。


ミルフォードトラックの高低差


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