私の一冊

ふしぎの植物学
〜身近な緑の知恵と仕事〜
(田中修:著 中公新書¥760)

推薦者:伊藤可奈子(アトリエK)

 著者は現在、甲南大学理工学部の教授、農学博士。先日、淡路景観園芸学校で田中先生の講演を聞く機会があった。やわらかい声とやわらかい関西弁での語り口。本書もその語り口同様、やわらかくてわかりやすい。

  緑=植物がいかに凄い生き物であるかがわかる。植物以外の生き物は自分以外の何かを食べて命を繋いでいるが、植物は生きるための食べ物を自分で作る。小学校の時に光合成の実験をしたことがあるが、そのメカニズムを知るにつけ、改めて植物の偉大さを感ぜずにはいられない。

 全ての動物は植物を食べて生きている。食物連鎖の基底部。人間は光合成の産物によって生きている。もし、人間が光合成を真似て水と二酸化炭素からブドウ糖やデンプンを作ることが出来れば、急速な地球人口の増加に伴う食糧危機を救うことが出来るのではないか。農作物の肥料を作る化学工業の必要もなくなるし、化石燃料の使用も大幅に減少する。結果、環境の悪化も起こらないし地球環境問題のいくつかは解消するだろう。しかし人間は植物のたった1枚の小さな葉っぱがしていることを真似ることは出来ない。人間の科学はたった1枚の葉っぱにも及ばないのだ。−と書いておられる。

 自分以外の生き物にとやかく言うこともなく、おかれた環境に文句を言うわけでもなく、淡々と知恵を最大限に活かしながら生きている植物に、ただただ尊敬と感謝の気持ちが湧いてくる。植物の生理と生きる知恵と賢さを、楽しく紹介してくれるおすすめの1冊です。ぜひ読んでみてください。

 最後に、世界中にあるソメイヨシノはたった1本の木から広がったそうです。遺伝子も全て同じ。人の知恵と桜の貞操かな。(好きな言葉じゃありませんが…)


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