主張

自然災害とまちづくり


片瀬 範雄 (パスコ神戸支店)


 今年は能登半島地震や新潟県中越沖地震が、そして梅雨明け時期の台風による水害が各地を襲うなど自然災害が多発している。それらのニュースに接するたびに市役所勤務時代の40年前の「42年阪神大水害」と13年前になる「阪神・淡路大震災」のことが思い出される。

 神戸のまちは、70年前谷崎潤一郎の「細雪」にも描写されている「昭和13年阪神大水害」以後、梅雨明け、台風時期になると神戸港の高潮を含め、「水・風」への恐れを常に心に強く刻んでいた。

 そのような中、地震は神戸を襲わないという何の科学的な根拠のない思い込みの中で、平成7年1月17日早朝の「阪神・淡路大震災」を受けたのである。何の予告も無く、心の備えも無い中での震度7の「激震」の中での被災はあまりにも衝撃的で、情けないことだが何をするべくも無く、ベッドの上で座り込む数分であった。

 関連死も含め6,434人が犠牲となり、その内倒壊家屋の下敷きとなり圧死・窒息死された方は73%で、そのほとんどの方が15分以内に命を亡くし、また焼死・焼骨の遺体で見つかった方が12%と、家が倒壊したために約85%の方が犠牲になったのである。また、年齢は60歳以上の方が約60%であり、滅失建物の建築年を見ると1975年以前が約92%であった。

 これらのデーターから見えることは、古いまち並み、道路も狭小で、公園のような空地も無いため防火帯となる公共空間が不足した地域の被害が大きかったとも言える。また子育てや車社会に対応しづらいまちとの見方から、若者が少ない地域でもあったとも言える。しかし、1,150万戸の旧耐震基準の住宅の早急な建て替えや、補強が一気に進むとは考えられないし、都市の更新も生易しいものでない。

 ハード面での整備を補完するために、ソフト面の強化を、内容としては住民の心の備え、そして地域のつながりが深まるコミュニティの強化や自治体間連携こそ防災・減災にとって必要なことと思う。

 10万余戸の全壊家屋から下敷きになった人の80%以上を救出したのも市民であったこと、31万余人の避難者のお世話をしたのも市民であったことなど市民の活躍のすばらしさによりあの混乱期を乗り切れたことを語り、その体験を活用していただくことがあの震災のとき全国の皆様にお世話になったお礼であり、責務であると考える。

 この考えから3年前からOB職員と現役職員が「神戸防災技術者の会(略称K―TEC)」なる組織をつくり、毎月開催する防災・減災に関する勉強会、他都市や住民からの要請を受けた体験談の語り部活動、神戸学院大学の「社会防災・貢献ユニット」における講義、自然災害発生地への支援活動などを行っている。

 皆さんのお住まいの地域や自治体で自然災害について学ばれる時は語り部としてK-TECのメンバーが参加しますので声をかけてください。
 また、今後行政改革により自治体職員は削減され、技術者も減るなか、大災害の発生時の体制も気がかりな点である。あの震災時、自治体から支援をいただいから乗り切れたと思う気持ちから、OB職員も含め自治体が連携して後方支援体制を築いておくことが大切と考える。

 神戸はいまだに震災、震災と言っているのかと思われる方もあるかも知れないが、神戸が受けた「悲しさ」、「苦しさ」、そして「悔しさ」を再度受けないようなハード、ソフト両面からのまちづくりが必要であると強
く感じている。


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