平成19年度現地シンポジウム高島市を訪問


軌道に乗る「環の郷」地域づくり


 地域デザイン研究会(平峯悠理事長)の平成19年度現地シンポジウムが9月8日、9日の2日間、町村合併による新たな市の誕生を機に環の郷(わのさと)地域づくりに取り組んでいる滋賀県高島市で行われ、地デ研会員17人が参加した。8日に開かれた高島市役所関係者との意見交換会で海東英和市長は、高島市誕生後2年9カ月を経て「地域の人たちが気持ちを通わせるようになった。希望が見えてきた感じ」と、地域づくりが軌道に乗ってきた実感を強調。「ないものねだりより、あるもの探し」の姿勢から市民協働が芽生えるとともに、さまざまなプロジェクトが動き出している状況を説明した。 (文・大戸修二)

拝藤企画部次長 海東高島市長 古谷自治協働課長

記念撮影(静里なのはな園にて)マキノ高原で説明を聞く静里なのはな園の施設を見学

■合併問題 勉強しながら前進

 高島市は滋賀県北西部に位置し、総面積は約511ku。その約7割が森林で占め、現在の総人口は約5万5,000人。平成17年1月、マキノ町、今津町、朽木村、安曇川町、高島町、新旭町の旧高島郡6町村が合併して、新たなスタートを切った。合併への経緯を含めた同市の取り組みには、市民協働のかたちが随所に見られる。

 合併協議会は平成14年10月に発足。延べ22回を繰り返す中で、事務方が用意した提案を追認する形をとらなかったのが特徴だったという。提案はまず住民に示し、1カ月後に協議に入り、協議後の内容も再び住民に示し、1カ月を待って決定するという手順を繰り返した。「市民に問い直すこと。交互でキャッチボールをしたことが、合併後の様々なことにも生きている。勉強しながら進んできたことが高島市の歩み」と、協議会会長を務めた海東市長は振り返る。

 新しい行政、高島市発足と同時に着手したのが行財政改革。職員数の削減目標(人口1,000人あたり14.6人→10人)を掲げ職員給与の大幅削減などに取り組むとともに、効率的な行政運営にも乗り出している。

■「事業仕分け」で事業の見直し

 その1つが事業仕分けで、従来型の行政内部による調整でなく、市民と一緒になって検討。公務員でなくてはできない事業を選り分けるとともに、公務員でなくてもできる事業を民に担ってもらうことを研究中。事業仕分けを進める中で、「この仕事はなぜ必要か、どこまで高めるべきかを見直せるようになってきた」と古谷市民協働課長はその成果を話す。また、事業施策への重要度・満足度を具体的に探る観点から、市民3,000人による市役所通信簿も実施。「それを行政改革の評価とし、改革に生かそうという試み」と拝藤企画部次長は説明する。

■市民協働 支所ごとにまちづくり委員会

 市民協働への取り組みはまちづくりに波及していく。同市では高島版地域自治組織「まちづくり委員会」を支所(旧町村単位)ごとに置き、市民協働が実現可能な事業を探し出し、委員が主体となった地域密着型まちづくりを進めつつある。もう1つの動きとして、大学、NPO、市の3者協定で18年度から協働事業をスタートし、まちづくり委員会や交流会を通じて得られた研究成果を「市民協働に関する提言」としてまとめた。19年度には具体策を示した市民協働指針をまとめることにしている。

記念撮影(静里なのはな園にて)

マキノ高原で説明を聞く 静里なのはな園の施設を見学

■環境があり、つながりがある「環の郷」

 高島市は「水と緑 人の行き交う高島市」をスローガンに、「環の郷(わのさと)地域づくり」を展開している。海東市長は1年目、2年目の総合計画を自ら書き上げた。「環の郷」を掲げたのは、都会のような効率優先のとらえ方では豊かさは語れないとし、人も自然も、動物も植物も、相互の恩恵や語りかけによって成り立っているという地域資産の再認識を強調した。環の郷の「環」は、環境であり、人がつながるという思いがこめられている。シンボリックな言葉をあえて使うことで、高島市の将来像を示した。

 「環の郷」たかしまの実現のため、市役所関係部局を横断的に結んだ庁内組織「環の郷推進会議」、営業開発室が設置されており、各部署との連携による地域再生、特区制度の活用などにも取り組んでいる。

 今年7月には構造改革特区として「環の郷教育特区」の認定を得たほか、全国トレイルサミット(2007年10月27日〜28日)の実現も成果の1つだ。80kmに及ぶ分水嶺トレイルが実現したのは、町村合併・高島市誕生によってこそ生まれた可能性といえる。

 意見交換会での市長の言葉、「国に押しつけられた合併であったとしても、結婚したなら幸せになろう」という
言葉が印象的だった。

■地中熱利用の「静里なのはな園」

 意見交換会の終了後、市長と市役所関係者の案内で保育園・幼稚園が共存する理想的施設「静里なのはな園」とメタセコイア並木が美しい「マキノ高原」を見学。静里なのはな園は、地中熱利用の循環換気システム導入や内装材への間伐材使用、屋外へのビオトープ導入など、まさに環の郷を象徴するような施設で、参加者らは興味深く観察していた。


◆現地シンポ2日目◆ 「屋台村in朽木」や「かばた」見学 STUDY21は「湖北」を巡る

屋台村でのステージ「朽木太鼓」 ぐるっと市場〜鯖街道を散策 湧き水利用の「かばた」を見学 湖北の寺をめぐる(石道寺)

 現地シンポ2日目の9月9日は、宿泊した安曇川レクリエーションセンターを午前8時半に出発、参加者のうち
11人は、NPOなどの活動を紹介する高島市初の催し「たかしま市民活動屋台村in朽木」(高島市朽木市場一円)を訪問。また、6人はSTUDY21のフィールドワークとして湖北地域を巡った。

 「屋台村」には約80団体が出展し、朽木太鼓などのステージ発表、体験コーナー、食のブース、フォーラムと内容は盛りだくさんだった。屋台村を訪問した後、一行は朽木観光ガイドボランティアグループの案内で「ぐるっと市場〜鯖街道散策」に参加。朽木氏の御用達豪商の屋敷や、人々の生活の中心だった「丸八百貨店」(昭和8年完成)などを散策。さらに新旭町針江地区に移動して、川端(かばた)を見学した。「かばた」は湧水が豊富なことを利用した生活文化で、豆腐を冷やしたり、洗い物をしたり。豊かな水は美しく使われながら家々を巡っていく。自然をうまく利用した、長年培われた生活文化を見ることができた。(鎌田・金田)


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