主張

地域の力

地域デザイン研究会 理事長 平峯 悠

 7月の参議院選挙で地方格差論議が高まり、選挙に大敗した自民党は格差是正のための公共事業や税制の見直しを検討しているようだ。一時的なカンフル剤とはなるものの、中央からの旧態依然とした補助金や交付税の地方へのばらまきでは格差を解消できないというのは経験済みである。最近のマスコミ等の論調は、財政に頼らないノウハウや知恵により、それぞれの地方がその地域に適合する活性化策を自ら考えることが必要であるとしており、いくつかの先進事例が紹介されてはきているが、具体的には不十分である。

 これからの日本社会においては、周知のとおり全国的な人口減と少子高齢化が進展すると共に、平成の大合併等により小規模市町村が都市に包含され、その結果住民のこころも都市的になり、地域共同体の結びつきが希薄になっていく。大都市地域においても、高齢化の進む地域や居住人口が少ない地域など変化が顕著に現れてくる。この流れを食い止めるのは大変難しい。このような状況に対応するには、考え方を変え、新しい価値基準に基づく生活に切り替えた方がよいのではないか。即ち@必要以上の消費をせず、節度という生活規範を復元A多様な人達がネットワークで結ばれるような静止人口社会の実現B年令に縛られない多様な生き方と働き方C簡素な豊かさの追求−などであろう。

 このような考え方で地域力を高めていくには、共同体や地域コミュニティーという居住と生活の基本に立ち返らねばならない。一般的に、活力ある地域では、地域住民の共同体への参加意識が高く、住民同士の交互交流が活発である。経済的な豊かさは必要ではあるが、それが優先されるとは限らない。地域デザイン研究会がこれまで実施してきた現地シンポジウムや見学会を振り返ると、「地域の力」とは何かという重要なヒントが隠されていると思う。

 ユニークな町長の下での住民主体の地域おこしに取り組む鳥取県智頭町、ゴミゼロ運動や3セク事業に取り組む徳島県上勝町、自然をフィールドとした地域社会の実現を目指す宮津市「地球デザインスクール」、平成大合併に取り組んだ滋賀県高島市、景観行政に取り組む滋賀県近江八幡市などはリーダーや事業が面白いという評価に加え、地域の力とはどのようなことかということを如実にしめすものであった。高島市朽木村にある古い「丸八百貨店」の建物を残すため運営に参加している地域の高齢の女性が、「みんなが仕事の合間に集まって細々と維持しているんですよ」と言いながら、誇りと生き甲斐をにじませていたのは、それを象徴するものであろう。

 人口構造や地域が変わっても地域共同体は存在し続ける。日本人には昔から地域コミュニティーを大切にする文化があったはずであり、社会の転換期にはそのDNAはよみがえるに違いない。共同体を構成する人達が職業・生活手段・趣味・お稽古事・ボランティア・公的活動などを通してネットワークされ、年代を超えて結びついていくことが地域の力を高めていく基本的な原則である。そのきっかけをつくるのが首長やリーダーの使命であり、推進のために必要なのが行政等の支援である。

 共同体を構成する人々の潜在能力は過疎地、都市部を問わず極めて高い。“地域の力を引き出すこと”これがまちづくりの共通の課題・テーマであると考える。


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