REPORT

「市民の力に火を付ける」

〜茶谷幸治氏が講演〜

 5月17日の第9回通常総会終了後に、茶谷幸治氏(プロデューサー=マーケティング、イベント、観光・ツーリズム)を講師に招いての講演会『市民の力に火をつける』が行われた。要約を掲載します。(文責:大戸修二)

■アイ・ラブ・ニューヨーク

 一昔前とは違って、遊び方も分からなくなった我々が、市民の力に火をつけろといって何に火をつけたらよいのかが分からない状況にある。今の日本は平穏無事、平和そのもの。逆に、市民の力に火をつけないことがこれほどうまく行った国はないとも言える。市民のパワーをうまく吸収するような、社会の在り方をつくっていくことが重要だが、その手本になるのが、アメリカにある。

 60年代〜70年代後半のアメリカでは、危険さがあちこちで発生。行政サービス、環境、景観、心理などが荒廃していた。何とかしなければと現れたのが「アイ・ラブ・ニューヨーク」のキャンペーンだった。既に30年以上続いており、イメージキャンペーンとしては大成功を収めている。

 そこに住む人たち自らが自分たちのまちを「Love(愛している)」として受け入れる動きをつくっていかないと、ニューヨークの再生はありえない。市民が腰を上げてほしい。この時に「Public Private Partnership」という考え方が生まれた。公的なものと私的なものとがパートナーシップをとって進める。公的なものは金がないから皆さんの力にすがる。そのかわり私的市民の言い分、運営権を市民側にゆだねるという構造だ。

■私的市民の先導力

 その典型事例がセントラルパーク。広さ340ヘクタール。年間2500万人がやってくるセントラルパークも、60年代後半は犯罪の巣窟という荒廃状況だった。これを何とかしようと立ち上がった女性がエリザベス・ロジャーズで、ニューヨーク市当局に金がなければ、自分たちで何とかしようと「Keep Central-Park Green」というキャンペーンを提唱。知り合いの雑誌編集者に頼んで記事を掲載した。セントラルパークを救う32の方法である。そうすると続々と賛同者が現れ、市と掛け合った。カネも人もいない当局は、どうぞやってくださいということになり、私的市民の先導力で変えていくことになった。

 公園は市民団体NPOが運営管理にあたっている。現在はスタッフ250人、毎日常時100人のボランティア
がいて、年間延べ3万6000人か公園管理に携る。年間予算27億円のうち80%が市民からの寄付という。ニューヨークには3万にのぼるNPOがあり、そのうち1万のNPOは収益団体で、雇用創出にも貢献。これらNPOがニューヨーク市の経済の13%程度を支えているという。NPO経済はニューヨーク市から離せない位置づけになっている。

■公的私的パートナーシップ

 「Public Private Partnership」はニューヨーク市とNPO団体で交わされていて、市当局とNPO団体が役割分担をする。運営の権限を主張し、互いに交渉し合って、「公的私的パートナーシップ」を築いていく。それにともない、公園、道路、商店街、河川、港などの公共財に市民力が参入していくことになるわけだ。 日本では公共の概念に乏しい。公共財は官が管理していて、離さない。市民力が参入することは、官にとって既得権を奪われるような感じになるようだ。そこが1つのネックだろう。市民力(民間力)の参入による効果として、

  1. 陳列型から活用型へ
  2. 公共価値から市民価値へ
  3. コストパフォーマンスの追及へ
  4. 責任の明確化

−4点が考えられる。

■アクションプランが欠かせない

 「市民の力に火をつける」ために重要なことは3点ある。1つ目は、市民が公共に関わることを具体的に示す「アクションプラン」の存在が欠かせない。例えば、この道路を使って毎週土曜日に皆が出店し、パフォーマンスを自分たちで行いたい。それを認めろと主張し、管理当局と掛け合う。セントラルパークも犯罪、落書きが増えている末期的状況だったからこそ、うまく行ったかもしれない。風俗に席巻された大阪ミナミの宗衛門町も崩壊寸前である。劇場文化も崩壊寸前にある。もう堪え切れないという瞬間でないと、公共に民間が関わっていくアクションプランは出てこないのかもしれない。 2つ目は、アクションプランが出てきたときに、(プランに関わる)その人たちに対し、正当な評価として敬意を払うべき。それがその人たちの誇りになる。3つ目がリーダーシップといえる。いずれにしても、やろうとする人たちを支援することが欠かせない。

■長崎さるく博

 「市民の力に火をつける」具体事例として茶谷氏は、自身がコーディネートプロデューサーをつとめた「長崎さるく博」(2004〜2006年)の話をした。

 観光客が減り続け、危機感に陥っていた長崎市。起死回生の実効を挙げたのが、まち歩きの博覧会「長崎さるく博」だった。40万都市・長崎に700万人がまち歩きをしたという。400人のガイドが自主運営し、3万人近い市民が関わり、長崎の賑わいをとり戻した。茶谷氏が長崎さるく博でやったことは、まさに「市民の力に火をつけること」だった。その仕組みは今も長崎で継続されているそうだ。

 詳細については「まち歩きが観光を変える−長崎さるく博プロデューサー・ノート」(茶谷幸治著、学芸出版社刊、1,680円)を参照。


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