平成 湖南商業の戦い

商業床が一気に出現 生き残り戦争突入へ

今中昌男

 平成18年のまちづくり三法改正による出店規制を控えた駆込み申請により、平成20年には全国で数多くの店舗がオープンし、いくつかの地域では「大丈夫かな?」と思えるくらいの商業床が一気に出現することとなった。滋賀県南部地域もその1つであり、平成20年9月から11月のわずか3カ月間に5つの大型施設がオープンし、京阪神地域から見れば人口規模も小さく、人口密度も希薄な同地域は激烈な生き残り戦争に突入した。なぜ過剰な店舗がつくられることになったのか、期待通りのものをつくることができたのか、これからの商業機能と地域のかかわりはどうなるのか。滋賀県南部地域での状況をレポートする。


エイスクエア

 今回の事態は平和堂(総合スーパー)とアヤハディオ(ホームセンター)とが優勢な状況にある同地域において、イオンモールと大和システムとが広域集客が見込める店舗用地を確保したことに始まる。ともに足元人口は少ないが、広域幹線道路に面した特性を活かし、まちなかから集客しようとする戦略であり、成功すれば土地コストが低い分大きな利益も期待できる。一方、既に人口集積地に複数店舗を持っている平和堂と綾羽(アヤハディオの経営主体)から見れば間隙を突かれた形となり、このままでは質量両面で守勢となり売上げの減少が見込まれるため、両社とも既存施設の増強に動いた。

【各商業施設の狙いと現状】

 オープンラッシュの火蓋を切ったピエリ守山は琵琶湖沿いの風光明媚なところに建つ本格的2層インナーモールであり、当初は滋賀県初のインナーモールとして賑わったが、その後客足は落ちている。足元人口が少ないにもかかわらず広域集客力に劣るテナントが多いことがピエリ守山の性格を不明確なものとしている。空区画や仮設的なテナントも見られ、テナント誘致にはかなり苦労したようだが、後述するイオンモール草津同様琵琶湖岸に立地するため、商圏円の半分は湖となり、集客には苦労しそうである。

 フォレオ一里山は敷地規模が小さく広域性にも劣るため、手堅く食品スーパーが核の2層インナーモールで周辺住宅地中心の商圏確保を狙う戦略であるが、その割には店舗面積が大きすぎるように思える。そのためか、フィットネスクラブ、ボーリング場といった非物販割合が高いのも特徴で、積極的に誘致したのか。出店ラッシュのため専門店を集められなかったのか。両施設は集客効果がある反面、駐車場回転率低下等デメリットもあり、このあたりがどう業績を左右するのだろうか。

 イオンモール草津は近江大橋詰にある本格的3層インナーモールで、シネコンを持つ堂々とした店舗である。滋賀県最大、イオンモールのなかでも最大級で自動車30分圏を商圏(人口47万人)としており、力を発揮すれば大津市中心部の商業機能は大きなダメージを受けると思われる。しかし、施設構成はイオンモールの定石を踏んだもので新鮮味に欠けるし、サブ核店舗がやや弱いように感じる。上記商圏には大津パルコや平和堂などが含まれるが、これらを超えてまで集客する魅力を発揮できるかどうか、最終的には商品・サービスのコストパフォーマンスが問われる。インナーモール特有の出店コストの高さがこれにどう影響するのか。オープン時に空区画が生じているのも気掛かりである。

 迎え撃つエイスクエアは草津駅西口前にあり、今回は1層専門店棟の2層オープンモールへの建て替え、核店舗アルプラザ(平和堂)のリニューアル等を行っている。インナーモールに比べ回遊性は劣るが、2層オープンモールは関西ではまだめずらしい「ライフスタイルセンター」的な構成になっており、イオンモール草津等への反撃体制を整えている。しかし新たな大型店出現による商圏縮小は避けられないように思え、総合力強化に向けた飲食・サービス機能の充実等が必要か?

 アルプラザ堅田は近隣大型店舗対策もあっての建て替えであるが、総合スーパーとしての商圏を確保していく
と思われ、対岸にあるピエリ守山に影響を与える。

 オープン直後で優勝劣敗を論じるには早いが、今のところ幹線道路による広域集客を狙ったものはテナントの構成・充足度を見る限り、デベロッパーの「期待通り」とはなっていないようだ。


ピエリ守山

  • 主な商圏となると思われる大津市・草津市・栗東市・守山市・野洲市・甲賀市 の人口は約79 万人(平成20 年1月時点)

  • これら5施設の大店立地法届出面積(物販面積に相当)は合計145,782uとなり、同時期にオープンした阪急西宮ガーデンズの同面積71,030uの2倍を超える。 一方、西宮市・芦屋市・尼崎市の人口は約103 万人(平成20 年11 月時点)


イオンモール草津


フォレオー里山

【郊外商業施設の立地・集積の方向性】

 平成20年5月から7月にかけて開催された大規模小売店舗立地審議会での意見聴取では、「広域的な自動車交通量の削減・制御」が大きなテーマとなり、鉄道駅から離れたイオンモール草津等には厳しい質問が飛んだようだ。そこには地球温暖化防止に向けたCO2削減への関心は当然ながら、営々と整備してきた幹線道路が予期せぬ大型店の出現によりパンクしてしまうことへの苛立ちが感じられる。確かに、これらの店舗では前面道路拡幅等の対策が講じられているが、広域的には路線バスによる来店促進くらいしか手が打たれていない。オープン直後の特異性はあるが、関連道路が渋滞し周辺生活者等から不満の声が聞かれるし、観光客が増加する夏場はどのような渋滞になるのか、琵琶湖岸に立地するだけに大変心配する声もある。「日常生活だけでなく、緊急車輌の走行に支障がないのか」。商業デベロッペーはこの現実をどう考えるのであろうか。

 今後の商業施設を取り巻く情勢として、@更に高齢化が進展しモビリティーが低下すること、A更に温室効果ガスの削減が求められること、Bエネルギー価格が高止まりする等があり、多世代が利用する多機能な商業施設はコンパクトな移動が可能な人口中心に集積していくことが望まれる。 一方、滋賀県南部地域を見る限り、大型店が群立している地域ではテナントとしても広域集客に頼らざるを得ない大型店への入居は敬遠する傾向が見られ、新しく大型店が作られ、各店の小商圏化が進む限りこの傾向は続 くと考えられる。

  このような背景を念頭において今回オープンした施設を概括すると、まちなかに立地し、徒歩・自転車での来店者が多く、客層も幅広い「エイスクエア」は商業施設としての自然さと、環境技術に頼らない本来的な地球環境への負荷の低さが感じられ、これからの商業施設とし ての持続可能性が高いように思う。郊外部では多くの商 店街等中心市街地が衰退しているが、まちなかにある大型店との連携によって活性化するのも一方策と思える。 大型店も周辺住民・商店主のニーズを汲み取り、地元から支持される施設にならないと、これからの生き残りは難しい。双方の連携、役割分担により商業・サービス機 能が活性化し、既成市街地の居住環境が向上することを 期待したい。


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