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主張

計画と設計〜計画系業務は危機に瀕している〜

地域・交通計画研究所   戸松 稔

 私の出身校は京都大学工学部(昭和43年卒)。学部4年の研究室への配属段階で、当時の佐佐木先生にころっとだまされて計画系の米谷・佐佐木研究室を選択してしまった。当時の土木の講座は水理学、構造力学、土質力学などを基礎とする旧来系の講座と都市計画、交通計画などを分野とする計画系の講座に大別出来た。先生の口説き文句は「旧来系では諸君らと教官との学力差は膨大だが、計画系では差はない。研究テーマのスタートラインは教授も諸君らも同じ位置だ。是非計画系に来なさい」であった。以来、計画系の業務と生涯付き合うこととなった。

 建設コンサルタントに転身した当時は、計画系の一部の領域がコンサルタント業務になり始めた頃だったのだろう。計画系の業務を担う技術者として大学助手からコンサルタントに迎えられた。空港関連、総合交通関連、道路関連等の計画系業務に意欲を持って取り組んだ。その一方で、作業環境としての建設コンサルタントの枠組みに違和感を覚える事も少なくなかった。それは、コンサルタントの枠組みが全て設計を前提に組み立てられていたので計画業務に不適合な事があったからである。 例えば設計では工程ごとに人件費を人・日で積み上げて全体費用とするが、計画では工程そのものが確定的でなく項目ごとの必要人・日の推定精度も低い。また設計では最終成果品が明確に規定できるが、計画では着手時に成果内容を想定でないことが多々ある。必然的に計画系の業務展開はトライ・アンド・エラーにならざるを得ず、採算性は低くなる。計画系の業務が定着してくる中で、計画系の業務にも、会社が「採算、採算」と言い出すに及んで会社を辞めた。そして、今の会社をつくり現在に至っている。今の会社は「計画専業」を自負しているのだが、単に
設計が出来ないことの言い訳でもある。ただ設立当初から「総合コンサルタントより質の高い専門店になりたい」を強くイメージしていた事は確かである。

 さて公共事業の入札制度改革の過程で、計画系の業務は危機に瀕している。第1に最低価格で受注者を決める方式は計画系業務では不適切である。計画系の業務では誠実な技術者ほど成果品の品質を高めたいと考えるので、費用的な制約に悩むことになる。質の高い品質を求めるなら相応の費用を保証すべきだろう。成果品を規定できない計画系の業務では、最低価格入札方式は品質のダンピングに直結する心配がある。

 次に計画系の業務では設計系以上に専門が細分化されており、かつ業務の形態も調査、検討、研究、フィールドワーク、社会実験と多様性に富んでいる。的確に業務仕立てを行う上では、役所側技術者も高い専門性を備えている事が望ましいが、充たされない場合も多い。一方、発注の透明化の視点から発注の前段階では、役所は業者との接触を厳重に避けている。良質の成果が期待できる業務として仕立てるためには、コンサルタント技術者へのヒヤリングを必要なだけ認める事が必要だろう。

 また計画系の業務領域ではコンサルタント技術者を育成する視点もあってしかるべきであろう。例えば十数年に一度の「○○市マスタープラン作成」といった業務を、ある日、ある業者に発注して質の高い成果が期待出来るものだろうか。役所側でこれはと思う技術者群を企業の垣根を越えてプールし、中間年次には少額の費用で課題を与えてそれぞれの専門領域のポテンシャルの向上に努めさせ、十数年に一度の本番に備えるといった方式が実現出来ないものだろうか。

 十数年前に見た海外技術者登録の書類では、技術分野をプロジェクト・プランニングと設計に2分してその後にダム、道路、橋梁と言った周知の区分が続いていた。計画と設計は、海外では技術領域を仕分けする基本的な区分として承認されていたのである。技術領域の適切な区分の下に入札制度改革を進める必要がある。現状は公共事業の質の低下を招くばかりでなく、建設コンサルタントの将来を危うくしている。

 技術者を的確に評価しない業界を優秀な若手が選択する筈もない。計画系業務は危機に瀕している。


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