MEMBER'S SQUARE

まちづくりの「まち医者」をめざして

有限会社ハートビートプラン
泉 英明

 私は、都市計画事務所の有限会社ハートビートプラン、NPOのもうひとつの旅クラブなどに所属しています。これらの立場で最近関わっていることをご紹介したいと思います。仕事を通じて思うのは、地域住民の身近にいて、様々な健康問題に対応し、普段から継続的に話しをし、治療のみでなく病気の予防やリハビリも手がけ、必要な専門性を判断し最先端医療との橋渡しなどを行う「まち医者」的役割の必要性です。まちづくりのまち医者を目指して日々活動しています。

■高松市

●まちなか広場「4町パティオ」のリノベーション

 都心の中心に位置し3つの商店街が交差する500uほどの小広場の再生プロジェクトです。以前は人が寄り付かない場所でしたが、地域の活性化・治安の確保のため、商店街と自治会が一体となり活動が始まりました。8年の活動を経て平成19年8月にリニューアルが完成し、新たな一歩が始まりました。

 デザインは、専門業者に任せるのではなく、大阪大学福田研究室の協力を得てVR(バーチャルリアリティ)システムを使い仮想空間を体感しながら、継続的に運営に関わる人たち皆で創りあげました。デザインの基本コンセプトは不要な要素の「引き算」。人の活動があり、はじめて完成するシンプルな空間を目指しました。周辺の建物もデザインの大切な要素となるため、建物の外観や使い方について自主ルールを作成、一部を地区計画に位置づけました。この場所は「道路」ですが、さまざまなアイディアを道路管理者と協議した結果、パラソルや移動可能なベンチの常設など、憩いの場・多様な催しを演出する道路占用が可能となりました。

 毎日のパラソル開閉、日常時の清掃、催物企画運営、長期修繕計画と財源確保など継続的に地域が関わり続けています。多くの人がまちに関わり、自分のお気に入りの場所や空間を創っていけば、まちは自然と元気になると思います。

●高松まちなかビジョンの提言

 平成10年から関わったTMO高松の集大成として平成18年に取り組んだプロジェクトです。この8年で高松の都市構造に関わる大規模事業は一段落しましたが、その間郊外化の流れは一層進み、線引きは廃止され、まちの顔・特徴が消えつつあります。このようなバラバラな現状を放置したら、このまちは人が住み・働き・訪れる「まち」としてあり続けることができるのか?

 このような問題意識のもと、高松の各専門分野で実務の最前線にいるメンバー有志が集まり、日頃の問題意識を持ってそれぞれの視点から「まちなか」を総合化する試みです。建築、金融、マーケティング、不動産、マスコミ、歴史、鉄道、広告、商業者、都市計画公務員、大学教員など、すごいメンバーで何度も日が替わるまで議論し、自らの問題意識と愛する高松への提案を出し合い、成果をさまざまな場でプレゼンしました。そこで提案した12のリーディングプロジェクトは、実はこの2年間で半分程度かたちになりつつあります。「せとうちチャンネル」(http://setouchi-ch.jp/)もそのひとつです。


■東大阪市高井田地域

●モノづくり集積地を保全し住工共生する地域ルールづくり

 高井田まちづくり協議会 http://takaida.jp/
 経済のグローバル化が進展する中で、競争力を高めるモノづくり重要拠点である大都市工業集積地で、強い工業用地需要があるにもかかわらず、割安の地価を背景に工業用地が住宅開発に安易に転用されるなど、工業集積地の操業環境が非常に不安定な状況があります。都市計画・用途地域制度の矛盾の中で、自らの操業と居住の環境を守り高めるため、有志の企業・住民が立ち上がり、「世界の高井田」を目標にモノづくりのまちを次世代へ継承すべく奮闘している活動です。東大阪市の高井田地域という、市内で最も企業が集積しており立地需要も高いエリアを対象としています。

 地域における企業マップ作成、推進組織の設立やまちづくり構想のとりまとめ、地域への提案・意向把握などを経て、市のモノづくり施策への位置づけ、地域のルールを地区計画で担保する合意形成作業などを現在進めています。

 並行して、「高井田モノづくり体験塾」と称して、世界に誇る地域内の中小企業に高校生・大学生が訪問し、聞き書きを通じてモノづくりの本質や仕事に取り組む創意工夫の姿勢、最先端の技術など、普通の工場見学では得られない相互の交流体験をして、モノづくりを次世代へ継承しようという活動を今年度から始めています。 都市計画というツールはモノづくりに貢献できるか?人の暮らしの芯の部分、生業の環境も守れない都市計画など要るのか?これらを自問自答しながら関わっています。


■大阪市

●大阪まち遊学

 NPOもうひとつの旅クラブ http://www.tabiclub.org/event/2008.html

 NPOの基幹事業として、平成19年に立ち上げた取り組みです。「大阪人自らわがまち魅力発見」&「来訪者とのふれあい」の仕組みを構築し、継続可能な観光集客&郷土愛育みの循環をつくることを目的としています。 法円坂、三軒家、野田、天満天神、北大江などの一見普通のまちを独特の視点で巡り、四天王寺や大阪城や大阪駅など皆さんがよく知っている所も切り口を変えてディープな体験をします。 オープンガーデンという、自宅の庭をきれいに飾り来訪者や隣人に開放しもてなすという思想を、大阪の特徴のある各地域で展開できないか?名づけて「オープンタウン」。NPO各メンバーが住んでいるところや勤務地を中心に、ユニークな地元の方の協力も得て地域をまるごと体験します。平成20年は4月〜11月まで月1回実施。来年はよりグレードアップする予定です。

●北浜テラス
 http://www.osakakawayuka.com/

 水都大阪の新たな風物詩を創る取り組みです。大阪を代表する風景に恵まれているが、建物が川に背を向け川沿いが使われていないのが淀屋橋〜東横堀川のエリア。以前から何とかできないかと漠然と考えていました。

 そこで、2つのNPO共同で「大阪川床」を研究・提案し、地元の方々とともに話し合いを重ね、今年の10月1カ月間限定で実現しました。土佐堀川左岸で、堤防と民地の間の土地(河川区域)を利用して床(テラス)を設置し営業するもので、「北浜テラス」と命名しています。

 まずは、モデルプラン作成、ビルオーナー意向把握などを行い、河川管理者と地域の両方が実現可能な仕組みを模索しました。幸運にも水都大阪2009実行委員会の協力を得て河川の一時占用が可能となり、その他風致地区等関係者協議、川床ハードの工法・構造・コスト・期間などオーナー間の調整を経て、川床のコストを負担した3店舗により実現に至りました。

 多くのメディアに取り上げられたこともあり連日満員で、事故もなくお客さんからは非常に高い評価を得ました。今年は期間限定のスキームでしたが、来年以降は河川管理者の大阪府が進める河川占用準則緩和の仕組みに乗り、常設化を目指しています。 また、水都大阪ならではの特徴を活かし、船から川床にアクセスし楽しめる、川床から船や対岸の中之島公園で行われる催しを楽しめる、そのような風景を創りたいと思っています。


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