REPORT
討論会 『都市整備、公共投資、まちづくりの在り方を問う』
通常総会終了後、NPO法人が前提としてきた社会情勢が一変していることを共通認識としつつ、討論会『都市整備、公共投資、まちづくりの在り方を問う』を約2時間にわたり行った。 「まちづくりの目標」、「密集市街地の整備問題」、「学生の質と後進の指導」などの討論はできたが、NPO法人の新たなミッション、情報発信の在り方などについては、引き続きの討論課題として持ち越した。笑声の絶えないフランクな議論が展開できた半面で、「討論会の主旨」が不明確だという指摘もあった。議論の一層の深化や明確化のためには、用意周到な進行企画など事前準備の必要性も教訓として明らかとなった。 討論会での発言要約は次のとおり。※事前提出資料概要は末尾に掲載 |
■まちづくりの目標
- 地デ研の現地シンポやフォーラムで取り上げた都市では、たとえば京都は「古都保存と観光」、松山は「坂の上の雲を生かしたまちづくり」、智頭町、上勝町もそれぞれ独自のまちづくりを進めている。大阪は何か発信できるまちづくりの目標を持っているのだろうか。
- 「造る」から「修理・修繕して使う」への変化、建設業・建設コンサルタント業の苦境、神奈川県や横浜市の後塵を拝する人口規模等を考えると、(目標として)「東の東京に対する西の大阪の復活」しかないのかなと最近思っている。
- 橋下知事の「大阪ミュージアム構想」が住民と一緒になって進められているが、あれは大阪のまちづくりの目標と言えるのか。
- 歴史・文化は、大阪の発信するまちづくりの視点の一つである。また、まちづくりでは仕組みを作ることも大事で、ミュージアム構想はシステムづくりの一環としても機能している。
- 神戸方式は開発によって産業構造を満たして行くものであったがこれは終わっている。今は「アーバンデザイン」等、まちづくりの新たな目標を模索中である。都市に住む人のコミュニティが失われている中で、人の結びつきを強める方向を指向しているが、これは神戸の目標であって大阪にあてはまるとは思えない。
■討論会の主旨
- 今日の討論会は「個人としての集まりであるNPO法人を(これから)どうしていくのか?」を議論するのが主旨と聞いていた。提案されたプロジェクトに賛成で、これらに各人が参加して活動成果を第3者に公表し、外からの評価を得ていくことが方向と考えている。
■まちづくり行政の現状
- 大阪市のまちづくりを振り返ってみると、1960年代前半にマスタープランを作る事を目的に「総合計画局」ができた。しかし20年ぐらい前から事業費がなくなり、土地信託事業とか3セク事業に移行して、それも破綻している。金がなくなった以上に、実は、アイデアが枯渇して自信をなくした事が大きい。これからの大阪市のまちづくりは商社機能に徹して、民間のアイデア、財力を活用したら良いと考えている。もちろん都市計画の全体像を示すことや、インセンティブをどう与えるかは行政の役割である。
- 高度成長期に大々的に事業を展開した自治体は特に、今はお化粧程度のまちづくりが限度で、抜本的な改善を行う力はない。
■密集市街地の整備問題
- 吹田市等の市街地の改造問題だが、国は「密集市街地」と称して問題を分類しただけで、都市整備の目標として設定する気も、必要な金と時間を結集する気もないように思われる。
- 密集市街地の整備を一時期国が本気でやりかけたことがあり、国の3/4の負担で、我々も取り組みを開始した。しかし、分譲アパートの管理が不十分で買収・調整に膨大な時間を費やし、また、工事用進入路を確保する制度がなく、年度中に事業を終わらせるのに塗炭の苦しみを味わった。計画できれいに書けても制度上の問題点がクリアできないと、事業として成立しない問題がある。
- 地区計画の中で準防火、防火の指定を行い、また特定防災街区に指定して改良を進めている。また金剛NTでは道路も作り直している。これらの市街地の更新事業により、少しずつまちがきれいになりつつある。
- 「豊かに」のように価値観を含めたまちづくりの目標を設定することが重要である。
■学生の質と後進の指導
- 質的なものの向上が大事になりつつあるが、質を測る尺度はない。一方、少子化の中で土木に全く夢を持たず、まちが「美しい」、「気持ちがいい」、「豊かな空間」とかが解らない学生が増えている。そのうち、商品のわからない商社マンが増えるのではないかと心配している。まちの質を理解できる都市部局の職員をどう育成・教育するかの課題がある。
- 昔からの伝統的評価基準を我々が教えて行かなければいけない。行政の中では教える人が居ないので、これもNPO法人の役割の一つである。
■まち育て
- まちのセンター施設を作り、管理する会社に勤めている。地域に根差したまちづくりと言ってもその動機付けも評価の方法もなかったのだが、昨年「ショッピングセンター協会」が「まちづくり地域貢献賞」を創設して、「まち育て」に各主体がどれだけ寄与しているかを評価する仕組みができた。「まち育て」では地域の将来像を熱く語れる人と、実行力のある人の両者が必要である。
■総括
- (討論は)「堂々めぐり」と言う意見もあるが、今考えている事が世の中に合っているかどうかをいつも議論して検証することが大事である。まちづくりについては、地域遺伝子の調査を通して日本の都市の成り立ちが西欧と全く異なることが明確になってきている。ただ、古いものと新しいものをどう融合させるかが問題であり、それによってまちの形が変わってくるので、今年1年かけて考え方を練り直す予定である。また、交通が如何に重要であるかをアッピールして行きたく、そのためブログを活用することとしている。個々の施策の前提として、都市が本当にどっちへ向くのかの、都市論、都市基本論が欠けている。各行政体で議論を吹っ掛けて欲しい。誰かが受け止めてくれると信じている。
<討論会事前提出資料要約(4名)> ●地デ研のやるべきことは、「政策転換への貢献」に向けて
●社会環境情勢が大きく変わっても地デ研がやるべきことはそれほど変わらない。地に足をつけた提言なり行動を行っていくこと。そのためには、例えば現地シンポ等の各自の感想を集約し発信するなど、できることからコツコツと行っていくことが重要。昨年決めたはずだが、それを実行していくかどうかが、地デ研の実力として問われている。 ●道頓堀川再生、東大阪のものづくり集団による人工衛星の制作など、構想・計画されて実現するまでに20年かかっている。地域においても、20年後を考えた街づくりの提案が必要と思う。 ●右肩上がりの終焉、人口減少、公共投資の限界、住民ニーズの多様化・高度化、住民の参加意識の向上、の情勢にあって、それらは相互に関連しており、ボトムアップ的な「まちづくり」と、トップダウン的な「都市政策」をともに動かしていく必要がある。「まちづくり」を仕掛ける人は長期的な展望が必要。 |