REPORT

中・近世の風情が残る歴史都市
〜ならまちFWを実施〜

「まちを視る」分科会
主査:茂福隆幸(寝屋川市)

 「まちを視る」分科会では、5月16日(土)に「ならまち」のフィールドワークを行いました。今回はUR都市機構の吉田様のご案内で、「中・近世の風情が残る歴史都市ならまちの魅力」をテーマにまち歩きを行いました。ご案内をいただいた吉田様は、奈良のまち歩きが趣味で、時間があれば奈良のまちの散策をされており、奈良のことは大変お詳しい方です。

 「ならまち」という地名は正式にはありませんが、元興寺の旧境内を中心とした地域を「ならまち」と呼んでおり、奈良時代の平城京の区画のうち東部につきでた外京にあたるところで、平城京遷都以来まちづくりが始まり、宗教都市から商業都市へ、商業都市から観光都市へ様々な時代背景の中で繁衰を繰り返してきました。

 来年は平安遷都1300年祭りをひかえ、何かと物議を交わしたゆるキャラの「せんとくん」でも有名になり、また、今年の3月20日には阪神なんば線が開通し、神戸方面からのアクセスも便利になったこともあり、最近では観光客が増えたそうです。

 今回の参加者はご案内の吉田様を含め16人で、近鉄奈良駅の行基菩薩の噴水前で集合しました。当日はあいにく小雨が降ったり止んだりの天気でしたが、噴水の横に掲げてあった平城京の古図により奈良の歴史の話からスタートしました。吉田様が小さな拡声器を用意してくださり、プロのガイドのような説明が始まり、みんな聞き入りました。

 奈良駅を出発し、東向商店街から興福寺南円堂、五重塔を通り、猿沢池、奈良町情報館に立ち寄って、元興寺を参拝しました。途中、藤原氏の信仰の中心であった南円堂の八角形の話、五重塔は明治時代に25円で売却され燃やして金属を取る予定であったのが市民の要望で残ったこと、猿沢池のほとりにある「植桜楓之碑」、采女神社の話等々説明をしていただきました。

 元興寺では受付の方から説明を受けました。元々お寺は道場であってお墓はなく参拝の対象ではなかったので、奈良のお寺では参拝の風習はないこと。曽我馬子が588年に飛鳥に建立した日本最古の本格的仏教寺院である法興寺(飛鳥寺)が718年に移築され、一部屋根瓦に当時のものを利用しており、日本最古の瓦があること。収蔵庫に五重小塔の模型があり、それが全国の五重塔の見本となったこと。曼荼羅がご本尊であること等々興味ある説明を受けました。

 「奈良町資料館」では、昔のならまちの看板や仏像、古銭、ならまちに所縁のあった文豪たちの作品の原稿等を見学し、庚申堂の前を通りました。庚申堂はならまちの庚申信仰の青面金剛像を祀っている小さなお堂で、青面金剛の使いである申(さる)のお守り(身代わり申)は魔除けとして近隣の軒先に吊るされています。この由来は、悪病や災難を持ってくる「三尸の虫」は申を嫌がっていたので、災難が家に入ってこないように魔除けにしたそうで、この申の数は家族の数とのことですので軒先を見てその家が何人家族かわかるようになっています。

 次に訪れたのが、コミュニティ放送局「ならどっとFM」のある「奈良オリエント館」。ここはもともと穀物商を営んでいた築180年余りの町家で、往時の建物がそのままスタジオ、オフィス、食堂などに利用されています。偶然ですが、当会会員で本FWにも参加された大戸さんの後輩が同局でラジオパーソナリティを担当されているそうです。

 さらに、「ならまち振興館」から「ならまち格子の家」を訪れました。この格子の家は伝統的な町家を再現したもので、道路側にある格子、むしこ窓、細長く奥まで続いている土間、かまどのある吹き抜けの台所、中庭、蔵、箱階段など、当時の暮らしを思い起こさせてくれます。

 奈良市はこのようにならまちのいたる所に、古い町家を利用した無料の見学場所やコミュニティの場所を設けています。また、ならまちを平成6年4月に都市景観条例に基づく都市景観形成地区(面積約48.3ha)に指定し、地区内の建物などの位置・構造・外観の意匠などについて「景観形成基準」を定め、新築、改築、増築等については助言・指導を行い、修理、修景基準に適合する事業については補助金を出しています。

 奈良は京都と同様に昔は間口の広さによって税金が決められたこともあり、間口が狭く細長い敷地や住宅が沢山あります。他にも銭湯や酒・米・お茶・薬・砂糖など昔から変わらぬ店構えの老舗、最近では若者が好みそうなオリエンタルな雑貨店、隠れ家のようなカフェやギャラリーなどが並んでおり、古い建物と新しいものがうまく調和された独特の街並みを創り出しています。

 最後に立ち寄ったのは春鹿酒造です。ここではガラスのお猪口で5種類の利き酒(=写真)が楽しめ、そのお猪口はお土産に持って帰ることができます。造りたての地酒と絶品の奈良漬をおつまみに、少しほろ酔い気分のまま懇親会場に向いました。懇親会場は明治初期に建築され築130年を経過した呉服店を改装した店で、会場ではお酒も入って更に会話も弾み、最後までならまちの気分を満喫しました。

 今回はならまちの街並みもさることながら、吉田様の絶妙な案内と地酒の美味しさが印象に残ったFWでした。


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