主張

「変化」に対して十分な議論を

久保田晃司

 民主党が「高速道路料金無料化」を政策に掲げたことに対抗して、自民党政権下で3月から高速道路料金の大幅引き下げが実施された。そして総選挙で、マニフェストに「高速道路無料化」を掲げた民主党が過半数の議席を獲得し政権をとったことにより、次年度から段階的に無料化が進められようとしている。

 この「高速道路料金無料化」については、もともと民主党が政策に掲げるまでの間で、時間をかけてバランスのとれた幅広い議論がなされ、周到に総合的に考えられたものといった印象は受けず、この時点では単なる選挙での票集め手段としての意味合いが強かったのではないだろうか。

 現在、大幅引き下げや無料化に関し、既にさまざまな議論が始まっており、道路政策について幅広い観点から再考すること自体は重要なことであるが、こうした議論の構図は、「政権交代」が流行語大賞になる「変化があって当然」という雰囲気の中で、一般市民が第一印象としてメリットを感じる「無料化」の魅力に対し、交通、物流、経済、環境などの分野の学識経験者や実務者が、それによって引き起こされるであろう現象やその影響に対して問題点を指摘したり、危惧を表明しているといったものに見える。

 わが国の交通料金は、原則的に受益者(利用者)負担であり、無料化は道路政策についてこうした原則を放棄し、パラダイムを大きく転換することになるのだが、その点についても責任ある政策に導く必要がある。

 また、民主党政権の予算削減の目玉として「事業仕分け」が実施された。この作業は、民主党国会議員や民間有識者らで構成される評価者がワーキンググループに分かれ、あらかじめ抽出された447事業を査定するものである。これまで一般に対して概要しか示されなかった各事業の予算内容が、完全公開で国民の目前で査定を受けたことで、多くの人が政策策定に興味を持った意義は大きい。しかしながら、1事業当たりにかけられた時間は約1時間という短さであり、中身についての幅広い見地からの確認というよりは、「削減」ありきの仕分け人の迫力と、政策説明担当者のプレゼンテーション能力との勝負といった感が強く、政治決着に宿題を残した結果となったものも多い。

 今後の各施策の効果や功罪を事前に分析することは必要であり、施策の実施後の効果の確認も重要だが、それらの施策の導入が過去も含めた政策体系全体の中でどのような意味を持つことになるのかということが説明される必要がある。

 高速道路無料化に関するの議論や事業仕分けの様子を見て、今のところこうした点について十分な情報をもとに検証ができているようには見えず、非常に粗いという印象を持つのは私だけではないだろう。

 「変化」が生じ、政策について身近に議論する契機ができたことは、これまでの政権政党や官僚の政策決定の流れに口を挟みにくかった国民にとって歓迎すべきことである。これを機に、我々も政策についてこれまで以上に興味をもって情報を取得し、背景を知った上で、議論に参加する態度を持たなければならない。

 これに対して、専門家や学識経験者は、一般市民に対してわかりやすい形で情報提供する能力を磨き、そうした場を多く作るべきである。


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