REPORT

「まちを視る」分科会 船場界隈をまち歩き

船場コモンズをさぐる

 「まちを視る」分科会は5月22日、「船場コモンズをさぐる」をテーマに、元独立行政法人都市再生機構(UR都市機構)、現在は鰍tRサポート特別参与、船場げんきの会副代表世話人でもある千葉桂司様のご案内により、船場界隈のまち歩きを行いました。「船場コモンズ」とは、船場の活性化に活用でき、役立つあらゆる公私の空間を意味し、公開空地、船場建築線(後退空間)、神社仏閣、近代建築、アート、ギャラリー、屋上庭園などさまざまで、市民が使いこなすことによりコモンズとなる空間です。

(文:「まちを視る」分科会主査・茂福隆幸)

  写真(上)は高麗橋ビル

 今回は15名の参加があり、集合場所の大阪証券取引所のロビーで事前の説明をお聞きました。船場は、豊臣秀吉による大阪城築城に合わせて1598年より西に市街地を造成したところに始まったもので、江戸時代に幕府直轄地となり、伏見より町人や職人を移住させ、市街地を更に西に拡大して、水の都の基盤が固められてできたものとされています。

■昭和14年に指定された船場建築線

 船場には、船場建築線というものがあり、道路中心線から5mまたは6m後退した位置に、市街地建築物法第7条但書に基づき昭和14年4月に指定され、現在は建築基準法第42条第1項第5号の規定による道路の境界線としてみなされ、建築する際には後退する必要があります。また、船場は総合設計制度等に基づく公開空地が94カ所、4.3haあり、その他に屋上庭園や太閤路地という下水路の跡が残っています。

 最初に訪れたのは、大正11年に旧報徳銀行として建設された新井ビルです。建物は外観もインテリアも当時の雰囲気を損うことなくリノベーションされ優美な感じで、1階のスウィーツ店「五感」は、人気のロールケーキを買い求める客で大変賑わっていました。

■適塾と愛珠幼稚園の間に都会のオアシス

 次に訪れたのは、重要文化財であり緒方洪庵の私塾で有名な適塾と、日本最古の現役の木造校舎である愛珠幼稚園です。両建物の間にある緑地で、南側建物の総合設計制度による公開空地は、周りの建物に溶け込み都会のオアシスとなっていて強く感銘を受けました。

 続いて愛日小学校跡地に建設された淀屋橋ウエスト・ODONAを訪れました。ここは、1階と2階の店舗の入り口が外側に向いており、建物の中に入らなくても店の出入りができ、開閉店時間も自由な造りとなるなど、新しい試みの建物です。

 魚の棚筋の連続公開空地を通り、芝川ビルへ向かいました。芝川ビルは昭和2年に建設された鉄筋コンクリート建ての洋風ビルで、4階のレンタルスペースと屋上テラスを見学しましたが、今もなおテナントビルとして利用されています。

 続いて昭和5年建設の日本基督教団浪花教会、明治45年竣工の高麗橋ビルディング、吉兆、昭和2年竣工の7階建ての高麗橋野村ビルディング、大正12年建設の伏見ビルディング、大正10年に私邸として建設され、外壁は甲子園球場から株分けされた蔦で覆われた青山ビルディングなどを見て歩き、少彦名神社(すくなひこなじんじゃ)を訪れました。

■薬の町「道修町」

 この神社がある道修町(どしょうまち)は、江戸時代からくすりの町として有名で、この神社は「神農(しんのう)さん」の名で親しまれ、薬業仲間の寄合所(事務所)が置かれ、およそ300年前から文書が保存されてきました。道修町は江戸時代に、清国やオランダからの薬を一手に扱い、日本に入ってくる薬はいったん道修町に集まり、全国に流通していたようです。武田薬品工業、塩野義製薬、田辺三菱製薬をはじめとする多数の製薬会社がここから生まれました。

 続いて訪れたのは船場ビルディングです。この建物は大正14年に竣工したもので、当時ではオフィスと住宅を併せ持つ大変ユニークで革新的なビルとして注目を集めたようで、装飾性だけでなく、トラックや荷馬車なども建物内に入ることができる機能的な構造となっています。現在もほぼ竣工時の姿のまま店舗やオフィスとして利用されており、中央内部にパティオ風の中庭を置いて、最上階まで吹き抜けとし、これに面して内側に廊下を廻らせ、周囲に小部屋を配置しており、中庭は光が満ちた独特な空間となり、当時を思い起こさせます。

■最高の芸術作品「綿業会館」

 綿業会館では、総務部長の品川様に建物内を案内して頂きました。綿業会館は昭和6年日本綿業倶楽部の建物として竣工した渡辺節と村野藤吾のコラボレーションによる最高の芸術作品。当時の金額で150万円、現在の貨幣価値に換算すると75億円という破格の工事費です。各部屋の様式を全て異にし、また、将来本格的に冷暖房が普及することを想定し、ダクトの径を太くし建物に内蔵させ、当時から井戸水による冷風送気が行なわれていました。また、各部屋の窓に鋼鉄ワイヤー入り耐火ガラスを使用していたので戦火を免れたとのことです。

 イタリアルネッサンス調でまとめた玄関ホール、貴賓室と呼ばれる特別室、通称「鏡の間」と呼ばれている会議室は、アンピール・スタイルと呼ばれ天井、壁、開口部の装飾を抑えたデザインで、床にはアンモナイト化石の入った天然石が敷かれています。特に感動したのは談話室で、イギリスルネッサンス初期のジャコビアン・スタイルで吹き抜けの天井となっており、豪華絢爛で一見の価値は十分にありました。


愛珠幼稚園

淀屋橋ウエスト

高麗橋4丁目高麗橋ウエストビル前

芝川ビル

芝川ビル屋上テラス

少彦名神社

船場ビル

麺業会館の正面玄関

麺業会館で説明を聞く

麺業会館内レストラン

麺業会館内談話室

南船場市街地住宅

■端正な美しさ「南船場住宅」

 最後に訪れたのは、安藤忠雄氏が設計した公団南船場市街地住宅です。建物のデザインは装飾を排して端正な美しさがあり、建物の中に路地を演出し、裏の太閤路地まで通り抜けができます。

 今回は歴史的建造物から近代的な建物まで多彩なメニューのまち歩きとなりました。まち歩き後は、案内人の千葉様を交えて南船場「十代橘」で懇親会を行いました。まち歩きの感想や参加者相互の情報交換など和やかに談笑がすすみ、双子の女将さんの愛想の良さも相まって、いつも以上に盛り上がりました。 (詳細は議事録としてHP等で公開いたします)


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