REPORT

貴志川線にみる鉄道とまちの再生

2010年度現地シンポジウム報告

 地域デザイン研究会の2010年度現地シンポジウムは、9月3〜4日、和歌山県紀の川市貴志川町伊太祈曽にある和歌山電鐵本社を訪れ、和歌山電鐵、貴志川線の未来を“つくる”会、和歌山県、和歌山市から廃線の危機に瀕した貴志川線の存続に向けた住民・企業・学識経験者・行政による連携行動の経過や、存続後の取り組みなどの説明を聞き、地方における公共交通の役割や経営の持続性などについて意見交換を行った。(文:鎌田徹)

 シンポジウムには、和歌山電鐵(株)代表専務取締役礒野省吾氏、同社総務課長麻生剛史氏、貴志川線の未来を“つくる”会代表M口晃夫氏、同会事務局長奥山和生氏、同会内柴氏、和歌山県企画部地域振興局総合交通政策課長谷巌氏、同課地域交通班長浜野幸男氏、和歌山市企画部交通政策課長有馬専至氏らと、地域デザイン研究会からは、岩本、岡村、金田、小西、小山、立間、中井、新島、平峯、松島、柳田、鎌田が出席、活発な議論が繰り広げられた。

1,意見交換会

 最初に、平峯理事長より、地域デザイン研究会の公共交通問題への取り組みについて、報告が行われ、次いで、貴志川線の未来を“つくる”会代表M口晃夫氏、和歌山県総合交通政策課長谷氏、和歌山電鐵専務礒野氏、和歌山市交通政策課長有馬氏により、順次貴志川線存続に向けた経過と、存続後の利用促進の取り組みについて、報告がなされた。

●会員数6,000人を超えた「貴志川線の未来を“つくる”会」の活躍(同会代表M口氏)

 最初、貴志川線が廃止されるという話がきて(2003年11月)、どうしてよいかわからず、行政を呼んで勉強会から始めた。

 2004年3月には「南海貴志川線対策協議会」(構成:和歌山市、貴志川町、和歌山県、連合自治会等)が南海電鉄に対して、26万人の存続要望署名を持って、存続要望活動をしている。

 2004年8月、NHK「ご近所の底力」に地域住民24名が参加、住民による存続運動に多くのアドバイスを得る。この出演者を中心に、「つくる会」が設立された。

 2004年9月、南海電鉄から、貴志川線の鉄道事業廃止届けが近畿運輸局へ提出された。(2005年10月1日付けで廃止)

 つくる会としては、南海電鉄に存続を期待するのは出来ないと思い、他の事業者による存続に向けて、運動を展開することにした。行政当局からは、「圧倒的な住民の熱意が必要」と言われ、広く住民に訴える活動を行い、月単位で、1,000人以上の会員が増えていった。その結果、2004年12月には会員5,000人を突破した。更に2005年4月には6,000名を突破した。

 2005年2月、和歌山市、貴志川町、和歌山県の間で、貴志川線について、存続した場合、公設民営を基本としての支援策の枠組みで合意、発表した。引き受け手を公募。存続担い手を行政とともに探していたが、RACDAとの交流があり、その関係から、岡山電鐵に打診したところ引き受けていただくことになった。2006年4月1日より、両備グループによる「和歌山電鐵」が貴志川線を運行することとなった。

 2006年3月、行政、商工会議所、学校・PTA、住民団体(貴志川線の未来をつくる会、わかやま小町、和歌山市民アクティブネットワーク、和歌山電鐵)で構成する「貴志川線運営委員会」が設立され、貴志川線の利用促進と沿線のまちづくりについて、協働して推進を図っている。

●存続に向けた支援の枠組み決定(和歌山県)

<存続に際しての行政からの支援枠組み>(和歌山県)▽用地取得:合計2億5,000万円で、和歌山市と貴志川町が取得。県が全額補助。和歌山電鐵に無償貸与▽施設整備(変電所等の大規模改修):和歌山県が負担(上限2億4,000万円)▽運営費補助(欠損補助):10年間で8億2,000万円を上限に、和歌山市、紀の川市が負担。

 2005年2月地域住民の熱意を受けて、貴志川線存続に向けた支援策を決定し、引受企業の公募を行った。2005年9月南海電鉄、和歌山電鐵、和歌山市、貴志川町、和歌山県の間で「貴志川線存続に関する基本合意書」が締結された。

 補助期間となっているが、その後の補助をどうするか。交通基本法がでれば、それに基づくことが出来るが、今のところ不明。

●両備グループが引き継いだ経過と経営方針(和歌山電鐵)

 貴志川線の引受手の募集については、RACDAからも要請があった。今までも、廃線の危機に瀕した鉄道路線について、再生の提案を行ってきた。常々、▼沿線の熱意、▼行政の熱意、▼元事業者の協力が必要と言っている。

 貴志川線には、応募しないと言ってきたが、住民から手紙等をいただき3日前になって資料づくりに入った。結果、年間8,200万円の援助があれば経営可能と言った。しかし、住民自身が責任を持ってやるということが必要と申し上げた。

 損失補填の補助金は、経営のモチベーションを損なうと考えており、出来るだけ赤字を出さないように努力している。単年度ごとの清算で、2回補助枠を減額して返すことになった。本当は、設備更新などの投資に使わせてもらえれば、もっと有効になると考えている。

 最近では、補助枠の剰余金は「基金」として、積み立てられることになった。これは、将来の経営にとって、いいことだと思う。

2,質疑応答

●公共交通の危機感の原点は?

<つくる会> そもそも、鉄道があるから団地に移ってきた。その団地の自治会区長をしてる。鉄道がなくなればバスに変わるがその道路もない、高校の通学にも困る。野上鉄道の廃止事例(鉄道がなくなれば町は衰退する)を見ている。そのあたりが危機感で、活動の原点。

<和歌山電鐵> 両備グループの企業の10%が公共交通だが、公共交通は出来るだけ残そうとしている。両備グループの経営方針は、1.社会正義、1.お客様第一、1,社員の幸せ

●存続後、車から鉄道にシフトさせる活動は?

<つくる会> イベントなど「乗って残そう」の活動をしてきた。少しは増えている。「乗って下さい」では乗らない。楽しく利用しやすいものにすることが必要。→「もっとずっと貴志川線」

<和歌山電鐵> 行政、商工会関係、高校関係、住民団体、和歌山電鐵で構成する「貴志川線運営委員会」を月1回開き、利用促進とまちづくりについて、協議している。イチゴ電車、オモチャ電車、たま電車の車両整備、駅前P&R駐車場、新駅、駅設備、イベント、美化、たま駅長、沿線の魅力etc.

<和歌山市> 和歌山市の補助枠5,530万円のうち、残った分を基金にしている。10年後のための基金と考えている。駅から500m圏内を規制緩和をしたが、道路沿道も規制緩和しており、メリハリがない。

●首長の公共交通に対するポリシーは?

<和歌山県> 和歌山県は、公共交通を重視している。1000円高速の時に、フェリーがダメになったので、実験として補助金を出している。

<和歌山市> 和歌山市は公共交通に熱心。

●経営状況について

<和歌山電鐵> 2005年度は、年間192万人の乗車人数だったのが、2008年には217万人に増えた。定期客は横ばいである。すなわち、観光客が増えている。

 当社に相談があった団体の場合、たまを見て、電車にも乗ってもらうようにしている。相談のない場合、たまだけ見て帰る団体もある。見た人がすべて電車に乗ってもらうと30%の乗客増になる。イベントは、運営委員会の主催だが、「つくる会」に運営してもらっている。最終的には、年間4,000万円の補助金が必要であると思う。

<つくる会> 乗客250万人あれば何とかなると思う。道路なら整備、メンテとも税金で行われる。鉄道でも、例えば「鉄道専用道路」という形で、インフラに対し公共による費用支出が出来る仕組みが必要と思う。

貴志川線に乗車

 意見交換会のあと、伊太祈曽駅から貴志川線に乗 り、貴志駅にて「たま駅長」にお会いした。また、 新しく「たま」を形どった貴志駅も見学した。


たま電車


オモチャ電車


改装された喜志駅舎

3,感想


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