ペンリレー

旧くて新しい政策
―石原新税に思う−

大阪府  尾花英次郎

 東京都の石原知事が主力銀行に外形標準課税を適用することを決めた。これを皮切りに、ディーゼル車への排出ガス規制、都内への車の乗り入れに対するロードプライシングなど、次々に繰り出される都独自の政策に、地方分権、首長のリーダーシップの面から評価が高い。

 私も同感であるが、それよりも強く感じたことがある。いずれの政策もその必要性が非常に分かりやすく機を見たものであることだ。決して目新しいものではない。むしろ国を含めた行政においてはかなり以前から議論されていたものであろう。それでもなおわが国初の斬新な政策として鮮烈なイメージが強いことに、私は、逆にこれまでの行政という組織における意思決定の難しさを見る思いがした。悪いことは分かっているのに的確な政策を打ち出せない。難しい理論でもないのに世に問うことすらしない。なぜだろうか。企業や住民の利害が交錯し合意形成が難しいからか。それとも単に前例がないという馬鹿げた理由からか。

 石原知事は、これらの旧くて新しい政策を結実させるために思慮深く戦略を練ったことだろう。都議会直前まで新構想の情報管理を徹底したこと、公的資金導入や貸し渋り問題、高い給与水準などで批判に晒されている大手銀行を相手取ったことは巧妙とも言える手法だ。しかし、幾多の批難をもろともしないのは、新税が地方公共団体の課税自主権に基づいた合法的手段であることに加え、都市サービスを享受する大企業が応分の負担をもって当然であることなど、正当な理由があるからだろう。続くディーゼル車規制や都心流入車への課金においては、環境問題の観点からより一層その必要理由を強めている。「政策構想は都庁の役人が温めていたもの」「国よりも都庁の役人の方がはるかに正確」と知事に言わしめた行政マンは、誰もが理解できる、そして真に必要な政策を、新知事の強いリーダーシップに乗って世に出した立役者かもしれない。

 折から地方分権一括法が施行となる。税財源の移譲という残された課題はあるものの、地方公共団体が責任を持って主体的に都市政策を考えるべき時代が幕あけたと言える。私も行政に携わる一人として、大阪という都市にとって真に必要な政策を探っていきたいと思う。その際、多数の人口や産業・経済が集積し、権利関係・利害得失が複雑に入り組む大都市においては、全員賛成という形での合意形成は考えにくいだろう。新たな合意形成手法が必要となるかもしれない。

 ともあれ、大多数の人々に理解いただくために大切なのは、行政マンとして基礎的な理論・技法は押さえた上で、やはり分かりやすく正当な政策を立てること、そして、好機と見た時にタイムリーに打ち出せるストックを絶えず持っているかが問われるだろう。財政難を理由にした思考停止や複雑多岐な既存制度の繕いがいかに多いことか!時代は不透明だが、その分、全国一律の方法が通用せず地域独自の政策が必要となる。

 都市が独創性を競う時代、おもしろくなってきそうだ。

 地方分権を超えた地域主権の実現に向けて希望と強い意志をもって取り組みたい。


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